今日、トモが死んだ。 トモ、というのは、二重の意味を含んでいる。文字通り、友達の友であり、知とも子このトモでもあるから。 そして、今日、というのは嘘で、昨日でもなくて、トモが死んだのは一ヶ月前だ。 でも、そんなふうに心の中で思ってしまう程度に、一橋桐子は文学少女であった。 トモとは高校からの付き合いだったが、その人生はなかなかにきついものだった。 夫は暴力亭主ということはないけれど口うるさい男で、彼女は苦労していた。 一度、新宿のデパートで、彼女が大きな荷物を持たされて夫の後ろを歩いているのを見たことがある。トモの歩みが遅れると、「お前!何しているんだ!」と人目もはばからず怒鳴っていた。挨拶はしないで、そっと離れた。
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